医学部入試は「男性優遇」で構わない

かなり挑戦的なタイトルに驚かれた方も多いかも知れませんが、最後まで読んで頂くと必ず私の意図するところが理解できると思いますので、ぜひ最後までお付き合い下さい。

(この記事は筆者の以前のブログである「碧い欅」の2018年の記事を加筆修正したものです。)

先日、乳腺外科の手術後に執刀医が女性患者の胸をなめたとして準強制わいせつ罪に問われた裁判の控訴審で、東京高裁は無罪とした一審・東京地裁判決を破棄し、懲役2年の実刑判決を言い渡しました。

女性患者への準強制わいせつ事件、医師に逆転の実刑判決:朝日新聞デジタル
 乳房の手術後に女性患者の胸をなめたとして準強制わいせつ罪に問われた乳腺外科医の関根進被告(44)の控訴審で、東京高裁は13日、無罪とした一審・東京地裁判決を破棄し、懲役2年の実刑判決を言い渡した。朝…

このニュースが出た日、Twitterは大いにこの話題で盛り上がりました。

この裁判に関しては、当初から女性患者が術後せん妄の状態にあった可能性が指摘されており、同時にずさんな捜査状況も明るみになっています。

私は法律の専門家ではありませんので、この判決についてあれこれ言うつもりはありませんが、Twitterを見ていると気になるツイートが流れてきました。

2018年と2020年にそれぞれ明るみになった、東京医大と聖マリアンナ医大の女子” 差別”問題への揶揄を含めたツイートだと思いますが、これは医療現場の現状を全く理解せず、自らの感情にのみ任せた誤解も甚だしいツイートだと言えます。

全ての男性医師に謝罪すべきツイートだと私は思います。(そもそも女子を”差別”していたのは2校のみで、それ以外の医学部出身の男性医師の方が当然圧倒的に多い訳です)

私はタイトルにあるように、医学部入試は「男性優遇」で構わないと考えています。これは医療業界の現状を考慮した結果です。

この問題は、ただの女性差別問題として絶対に捉えてはいけないのです。

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世間の反応

2018年に東京医大の問題がニュースになった時のTwitterでの世間の反応をまとめると、おおよそ以下のようになりました。

1.「明らかな男尊女卑、男が日本をダメにする」

2.「女性の方が優秀、優秀な女性ほど差別を受ける」

3.「海外は女性医師の割合が高いのに」

4.「看護師は女性がほとんどなんですけど?」

この問題の論点

東京医大、聖マリアンナ医大は何も、単なる男尊女卑の観点から女子合格者の割合を減らしていた訳ではありません。

女性医師が結婚、出産をすると離職する可能性が高く、労働力の不足が懸念されるため、長期間そして長時間働ける体力のある男性医師を増やす目的がありました。

では、なぜこんなことをする必要があったか?

それは医療現場で医師が慢性的に足りないからです。労働力の不足は医師の長時間労働で何とか埋めている…という現状が続いています。

| 毎日新聞

残業の長さは一般サラリーマンの比ではないし、過労死ラインと言われる月80~100時間をゆうに越している医師も多いです。しかし労基署はあまり動けません。

これは医師に応召義務(患者から診療を求められたら基本的に拒んではいけない)という義務があるからと言われています。

少し話が逸れましたが、この問題の論点は

「長時間・長期間労働できる男性医師育成を優先せねばならない程の医療現場の劣悪な労働環境」

にあります。

東京医大側は「これは必要悪だった」と釈明していましたが、大学側はこの辺りの状況を全て把握していたからこそ「必要悪」だったという訳です。

世間とのズレ

大多数の世間の反応としては、「また女性差別。いつまで昔からの男尊女卑にこだわるの?」というものが多かったですが、おそらく上記のような医療現場の現実を知っている人は少ないでしょう。男尊女卑→女性差別の単純構造に当てはめるのは少し無理があります。

また、「本当は女性の方が優秀なのに!」というのもズレています。優秀とかそういう話ではなく、労働力が足りていないという話です。

海外では女性医師が多いのになぜ、というのも全くナンセンス。そもそも日本と海外では医療制度だったり、人口あたりの医師数が全然違うので比較できません。また、フランスのようなラテン諸国や、オーストラリアなどと日本では労働に対する考えが全然違うので休暇、離職にも寛容です。これは医療現場に限った話ではありませんが。

看護師は女性ばかりなのに、というのも医師と看護師では法律上施せる行為が違うし、数も看護師のほうが断然多いし比較できません。勤務体制も医師と看護師で全然違いますよね。

医学部は専門学校

以前の記事でも書いていますが、医学部は医師養成のための専門学校です。

国公立でも私立でも、国の医療方針に従って医師を養成するために存在しています。

つまり、医療現場のニーズに医学部が応えるというのは至極当然なのです。

医学部入試における多くの「区別」

医療現場のニーズとは基本的に「労働力確保」のことです。それに応えるために、医学部入試では多くの「区別」があります。

地域枠入試

地方は中央よりも医師不足が深刻です。これを少しでも解消するために多くの医学部が地域枠と言われる、地元県や特定の県出身者限定枠を設けています。多くの場合は卒業後10年程度地元県内の病院に勤務、というのが条件となっています。

入試の方法は各大学で様々ですが、一般入試と別に入試をする場合なら入試を複数回受けられる訳ですから、当然合格しやすくなりますし、1回しか入試をしない場合なら合格最低点は一般枠より低く設定されます。

浪人生、再受験生の扱い

医学部入試は難関なため、受験生に浪人生が多くいますが、医師全員が同じ年齢で退職すると単純に考えると浪人期間が長いほうが医師として働く期間は短くなり、将来的な労働力不足を招く可能性があります。

そのため、浪人生は年齢によって面接の点数を減点されることがあります。

一度大学を出て、社会人を経験した後に医師を志して医学部を受験するような再受験生は他の受験生よりかなり年齢が高くなるため、これでかなり苦戦しますし、そもそも再受験生お断り(絶対に合格できない)の医学部もあります。

これらは医学部受験生なら皆知っている事実ですが、出身地差別だとか浪人差別だとか言われることはまずありません。労働力確保のために仕方ないのです。「差別」ではなく「区別」をしているだけと言えます。

医学部入試は「男性優遇」で構わない

これらを踏まえると、東京医大も聖マリアンナ医大も女子を「区別」しただけと言えると思います。

現在の状況であれば、この実質的な「男性優遇」措置も致し方なかったと私は考えます。

では何が悪かったかと言うと、大学の中でコソコソと減点して枠を減らしたりしたことだと思います。

男性医師が女性医師に比べ労働力の面で勝っているエビデンスをきちんと示して、女子の枠を制限する旨を堂々と明記すれば良かったかも知れません。

どれくらい制限するのかは、正直難しいです。

男性医師より働いている女性医師ももちろんたくさんいるでしょうし、反例を挙げればキリがないと思います。

以下のような、研究結果もないことはないのですが、まだ少ないですね。

http://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/jss/pdf/jss6401_045068.pdf

医療現場、日本全体の労働環境の問題

この問題は東京医大、聖マリアンナ医大がどうの、というより医療現場、そして日本全体の労働環境の問題と言えそうですね。

日本は労働力不足をすぐ労働者の長時間労働で賄おうとする傾向があります。その辺りの日本全体の意識が変わらない限り、簡単に解決できる問題ではないと思います。

女性医師が働きやすい環境とは?

医療現場の現状を考えると、男性医師を優遇せざるを得ないことをお伝えしてきました。

医療現場が女性医師が働きやすい環境に変わらなければ、この傾向はどこまでも続いていくでしょう。

では、女性医師が働きやすい環境とはどのような環境でしょうか?

労働環境の中で、女性だけが働きやすい環境はほぼ存在しないのではないかと私は考えます。

つまり、女性医師が働きやすい環境というのは、男女関係なく働きやすい環境のことなのです。

この視点を持っている人があまりに少ないため、この問題が世間ではただの女性差別に見られているのではないかと私は考えています。

最後に素晴らしく的を射ているツイートを紹介させて頂きます。

患者の努力も必要

男女関係なく働きやすい医療現場にするためには、医師の無駄な労働を減らすという患者の努力も重要だと考えます。

昼間は病院が混んでいる等の理由で緊急性のない軽症患者が夜間の救急に来たりすると医師の無駄な労働が増えます。

「風が吹けば桶屋が儲かる」ではありませんが、患者が努力して「コンビニ受診」を控えることが医師の労働を減らし、労働力の不足が解消されることに繋がり、男性医師を優先させる必要がなくなり、結果女性医師の増加に繋がるのです。

コメント

  1. 志田噛まな より:

    女性の方が能力として優秀とTwitterで言う人がいるけど優秀な人もいるって話であって君は優秀じゃないよねって毎回思う。
    自分と優秀な女性を同じ主語で語るのはやめていただきたい。

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